第9章 1864年【後期】 門出の時
山崎君の動向なんて、僕より夢主(姉)ちゃんの方が詳しいはずなんだけど…。
「なんで?」
思わず聞けば、
「お湯屋さんに連れてってもらおうと思ってたんですけど、探してもいなくて。今日、私がお休み貰っちゃってるから忙しいのかな…。」
なんてぶつぶつ言ってる。
「あ、沖田さん!お薬ちゃんと飲まないと!」
そして思い出したかのようにそう言って、再び真っ暗な僕の部屋に入ろうとした所を肩を掴んで止めた。
「湯屋、連れて行ってあげようか?」
振り返った夢主(姉)ちゃんは驚いた顔をしてる。
「何?僕じゃ不満?」
なるべく冷たくそう言ったのに、
「いえ。全然。いいんですか?」
返ってきたのはやっぱり能天気な声だった。
土方さんに許可を得て、皆が夕餉の時間に屯所を出た。
向かう湯屋は、通りから外れたこじんまりした所で、結構清潔にしてる所なのに、あんまり人が居ない。
ましてや日が落ちたこの時間は、男装した夢主(姉)ちゃん達を連れて行く為にあるんじゃないの?って程に、人が居なかった。
ただ、彼女達三人まとめてだと目立つから、一人ずつじゃないと駄目なんだけど。
そうやって山崎君あたりが、夢主(姉)ちゃん達を湯屋に時々連れて行ってたみたい。
人が居ない街中を夢主(姉)ちゃんと歩く。
特に会話もなく、二人並んで歩く。
こんな風に二人で歩くのは初めてで…なんだか夢主(姉)ちゃんが居る左側がくすぐったい。
僕より足が短いから、あんまり歩幅を大きくしたら歩き辛いかな?なんて考えたりして。
まあこんな風にゆっくり歩くのも悪くないし。
何を考えてるのかわかんない相変わらず能天気な顔をして歩く夢主(姉)ちゃんだけど…突然ふふふって笑って、
「沖田さんて本当はすごーく優しいですよね。」
なんて言い出した。
「何を言ってるの?あの屯所で一番優しいのは僕だよ。今更気がついたの?」
なんて返事をすれば、
「あははは。それは今はじめて知ったかも。」
けらけらと笑ってる。
それから湯屋まで、適当な話をしながら笑って歩いた。