第9章 1864年【後期】 門出の時
今朝の朝餉は夢主(姉)ちゃんも一緒に食べる事が出来て、しかも江戸から帰って来た近藤さんや平助君や、永倉さん達も久しぶりに一緒に居て・・・すごく賑やかな時間だった。
最近、少し元気の無かった沖田さんも、そんな賑やかな中で、少し楽しそうにしてらして、私もすごく嬉しくなった。
近藤さんが楽しそうに笑うと、一緒に笑う沖田さんがなんだか可愛らしくて、その姿をちらりちらりと覗き見をしていたのだけど・・・
ふと、すごく優しくて柔らかい表情で微笑む沖田さんがいた。
その視線の先には・・・
夢主(姉)ちゃんが居た。
わかってたの。
多分・・・ずっと前から、私はそれに気がついていたのだけれど。
ずっと蓋をして・・・見ない振りをしていたの。
いつだったか・・・
「あんなに嘘が上手な姿は見たくない」
って・・・言ってた沖田さんの言葉に・・・どきどきしてしまっていたけれど・・・あれはきっと夢主(姉)ちゃんに向けられていたもの。
気づいていたはずだったけど・・・
実際に目で見えてしまうと、苦しい。
お湯が沸いて、お茶を煎れる。
沖田さんに渡せば、
「ありがとう千鶴ちゃん。」
と、少し微笑んでくれた。
沖田さん、いいのですか?
明日から夢主(姉)ちゃんはここには居ないですよ?
会いに・・・行かなくていいのですか?
そんな言葉達が頭の中を駆け巡る。
「今、原田さんと永倉さんと平助君がお部屋に来てくださってて…沖田さんもいかがですか?」
頭の中で巡らせてる言葉達とは違うけど…今の私にはこれが精一杯だった。
「ああ…夢主(姉)ちゃんの送別とかかな?…僕はいいや。夢主(姉)ちゃんが居なくなるのなんてどうでもいし。」
嘘つき…
どうでもよかったら、そんな顔はしないです…沖田さん。
「気が向いたら来てくださいね?」
沖田さんは鋭いから…
もしかしたら、私が今思った事はばれてしまったがもしれない。
なるべく明るくそう言って、煎れたてのお茶をおぼんに乗せて、勝手場を出た。