第9章 1864年【後期】 門出の時
壬生寺の前を過ぎようとして歩を止めた。
気配がするわけでもないが、此処に夢主(姉)が居るような気がして、境内の方へ向かう。
やはり今日の俺は調子がおかしい。
此処に居るなどと何故思ったのか・・・そして何故だか落ち着かない。
今日は部屋に居ると、山崎は言っていたではないか。
そう急がずとも顔を合わせることは難しくないはずだというのに。
そんな自分に心の中で苦笑しながら歩を進めれば、境内の前にある石段に座り込み、何やら刀を見つめている夢主(姉)の姿を見つけた。
普段の夢主(姉)ならば、此処に足を踏み入れた時点で気づくはずなのだが、近づいて声をかけるまで気がつかなかったようだ。
「驚かせてすまない。・・・少し良いか。」
「大丈夫です。すみません。少し気を抜きすぎてました・・・」
そんなやりとりをして、隣に腰掛ける。
やはり今日は思うところがあるのだろう。
いつもとは違う、柔らかい雰囲気を出す夢主(姉)の姿に、俺は此処に一体何をしにきたのか・・・と自問自答したくなる。
少しの間沈黙が続いた。
突然隣からくすくすと笑う声が聞こえて、夢主(姉)を見れば、
「いえ。斎藤さんにはいろんな姿を目撃されてるなぁと思って。思い出したらなんだかおかしくなっちゃった。」
石段に腰掛けている為、宙に浮いている足元を伸ばしてぱたぱたとさせて、くすくすと小さく笑いながらそう言う。
そんな夢主(姉)の姿に、鼓動は早くなる。
冷えた風が吹いて、ぱさりと葉が夢主(姉)が持つ刀に当たって落ちた。
あんたは刀と向き合えなかったと言うが、自ら刀を手放すあんたは、向き合った証拠だ。
そもそも女であるのだから刀を持つ必要もないだろう。
そうやって俺達と肩を並べて戦いたいと思うのは、生まれた世の違いだろうか?
いや・・・そうではないな。
同じ時代に生まれた雪村も、雪村なりに戦っている。
女はか弱きものだと思っていたが・・・強い。