第8章 1864年【後期】決意の時
「・・・で、おめえはいつまでそうやってるつもりだ?」
山南と夢主(姉)が部屋を出て行った後も、膝元の袴をぎゅっと掴んで下を向いたままの夢主(妹)に、土方は低い静かな声でそう言った。
その声色に夢主(妹)はびくりと肩を動かし、袴を掴んだ手にさらに力を入れる。
そんな夢主(妹)の様子に土方は、はぁ、とひとつ大きくため息をついて、
「顔あげろ。責めるつもりなんざこれっぽっちもねえよ。」
声色はそのまま通常より少し低く、印象としては少し怒っているようにも聞こえる・・・そんな声だった。
その言葉にも、夢主(妹)は顔を上げられない。
こいつは強情だからな・・・。
ったく。
そんな夢主(妹)の様子も、土方にとったら想定内であったのだが。
後の世からか・・・そう言われれば、俺達の名があまり知られてねえあの時点でこいつは「新選組の方達は私達に助けられるほど弱くないはずです」とかなんとか言ってたな。
後世に新選組の名が残ってる・・・か。
土方は満足そうに口角を少し上げて、下を向いたまま一向に動きそうもない夢主(妹)を見つめた。
「お前がどんな知識を持ち合わせていようが俺には関係ねえ。お前が例えこの先に起こるあらゆる事象を把握していたとしても、俺はそれを聞くつもりもなければそれに頼るつもりもねえ。同じく何が起こってもお前を責めるつもりなんざねえよ。それに・・・」
こいつがあの日偽りを言ったのは、後の世からやってきた、なんていう不可解な事を言い出せなかったからじゃねえ。
こいつのことだ・・・その知識を利用されることを警戒したんだろう。
なかなか賢い選択だ。
「聡い女は嫌いじゃねえ。」
土方がそう言い放つと、下を向いたままの夢主(妹)の肩が小さく震え、鼻をすする音が聞こえてきた。
そんな夢主(妹)の目の前まで移動し、顎をぐいっと持ち上げる。
「顔あげろっつったろうが」
真っ赤になった夢主(妹)の瞳に、声色からは想像できないような穏やかな表情の土方の姿が映った。
それを見てさらに夢主(妹)の心は苦しくなる。