第8章 1864年【後期】決意の時
「私は・・・」
やっとのことで搾り出された声は、いつもの夢主(妹)からは想像できないほどに小さくか細い。
「私はっ!」
次に出された声は、悲鳴のように裏返っていて、夢主(妹)は叫ぶような声で言葉を吐き出した。
「私はあの日池田屋で事が起こることを知っていました。それに・・・夏の・・・蛤御門の騒動だって・・・」
夢主(妹)は大粒の涙を流し、涙に咳き込みながらも、目の前の土方の目を睨むように見つめて言葉を続ける。
「私はっ・・・それらを黙ってました。言えば助かった命が沢山あったのにっ!!」
ほぼ叫びに近いその言葉を言い終えると、夢主(妹)は唇を噛んだ。
その言葉に、見守るように夢主(妹)を見つめていた土方の表情が曇った。
眉間に皺が寄る。
土方は、持ち上げていた夢主(妹)の顎から手を離すと、すっと立ち上がって襖を開けた。
開けられた襖から、月明かりが差し込む。
「うぬぼれてんじゃねえよ。あいつらは己の志の上に散ったんだ。それに・・・お前がその時々で知ってることすべて吐き出していたとして何も変わりゃしねえよ。一人の力なんざそんなもんだ。」
土方は腕を組んで開けた襖に寄りかかり、目を細めて月を見上げ、
「近藤さんがいて、俺がいる。俺らがいて新選組がある。仲間がいて・・・今がある。」
と、呟くように言うと、
「お前一人にそんな大きな力なんてねえんだ。もっと気楽にしてていい。」
見上げていた月から目を離して、夢主(妹)の方を見た。
そして、夢主(妹)の目の前まで行ってしゃがみこみ、再び顎を持ち上げる。
「言っただろ?お前が抱える重みなんざ俺がまるごと抱えてやるってな。」
すっかり信用を失ってしまったと思い込み、意気消沈していた夢主(妹)は、思いも寄らない言葉達にただただ呆然としているだけだった。