第8章 1864年【後期】決意の時
「ひとつ・・・言い訳・・・と申しますか、弁解を述べさせていただきますと・・・」
何も発しない土方に、夢主(姉)は再び口を開いた。
「今までそれを黙っていたのは、新選組をだますようなつもりでなかったことだけは信じていただきたいです。こんな話・・・言うとしても、どうやって切り出したらいいかわからなかった、というのが本音です。」
そう言い終えると、あと・・・と、さらにこう続けた。
「連行された初日に偽りを言ったことについては、特に悪いとは思ってません。」
張り詰めた空気の中、夢主(姉)の声は相変わらず空気を読めていないものだった。
とくに申し訳なさそうにするでもなく、淡々としている。
夢主(姉)がそう言葉を紡ぐ隣で、夢主(妹)は唇をぎゅっと噛みしめて、下をむいたままだ。
「はっ・・・くくく・・・」
今まで眉間に皺をよせて鋭い視線を夢主(姉)へ向けていた土方が突然吹き出すように笑い出した。
そんな土方に夢主(姉)は首をかしげて様子を見守る。
「突拍子もねぇ話だが・・・そんな話の方が逆にしっくりくるな。初日の嘘には悪いと思わねぇ・・・か。それでこそおめぇを密偵に使える理由になる。そうだな・・・たしかにあの日に真実をすべて言う義務なんざねぇ。」
「そうですね。さすが・・・といいましょうか。連行された日には、きっと口裏を合わせる暇もなかったでしょうから、あれは賢い夢主(妹)君の機転かと思いますが・・・。夢主(妹)君、何年後の世から来たのか教えてもらえますか?」
土方に続いて山南も笑いながらそう言い、下を向いたままの夢主(妹)を見つめた。
「・・・・・・」
この後におよんでもいつもの調子で話し、更には全く悪びれてもいない夢主(姉)とは違い、夢主(妹)の心中はそれどころではなかった。