第8章 1864年【後期】決意の時
土方と山南がこの姉妹の不可解な点について気づいたのはそれだけではない。
本も読め、文字を書く事もできる夢主(妹)とは違い、夢主(姉)は町人の書いた文すら読めない。
文字が読めないかと思いきや、夢主(妹)の書いた文ならば、かなであっても漢字であっても読めるのだ。
そして「おかしい」と思うのに十分なこともあった。
長州の浪士から押収した洋式の武器に書いてあった記号のような文字を、夢主(姉)がすらすらと読み上げたのだ。
夢主(姉)にとってはただの数字でありアルファベットだった。
だが、この文字を読める日本人はこの時代には数少ない。
未来から来たことを隠す姉妹にとって、気をつけなければいけない点であったのだが、夢主(姉)は夢主(妹)ほどにそこらへんの事情には非常に疎い。
よって、たまに現代ならばあたり前に使われる和製英語や英語の単語も使うことがたまにあった。
もちろん・・・夢主(妹)には注意をされていたのだが・・・。
そんなことが重なり、いったいこの姉妹は何者なのだ、という疑念が大きくなった。
新選組の一員として・・・と、土方の傍らでひたすら書き物を手伝い、目を輝かせて剣術の稽古に励む夢主(妹)を見ていても、まさかどこかの間者だとは思えない。
夢主(姉)にしても、夢主(妹)よりは怪しい点が多いのだが、特に新選組に対して怪しい動きを見せているわけでもない。
ただ、優秀な間者だったらこれくらい懐に飛び込んでくることもできるのだろう。
今や情があり、この姉妹を仲間だと認識している土方と山南は、疑いたくはないが疑わねばいけない立場だ。
もしも間者であるとしたら、この姉妹は危険すぎる。
島原へ夢主(姉)を出せば・・・もし本当にどこかの間者だとしたら、夢主(姉)の任務はきっと成功なのだろう。
誰とでも連絡をとれる状況を作ることになる。
そしてこの姉妹はまんまと新選組中枢の心を掴んでいるのだ。
土方と山南にとっては既に大分情を移してしまったこの姉妹を斬るべきか・・・、そしてこの姉妹にとっては本当に新選組の仲間と認識されるのか・・・
正に双方にとって今が運命の分かれ道だった。