第8章 1864年【後期】決意の時
「私達は未来から来ました。」
と、まるで一気に張り詰めたその場の空気にも動じていないように、さらりと一言発した。
命をかけると、その場で斬り捨ててもかまわないと言ってのけた後のその言葉に、土方も山南も自身の耳を疑った。
そして即座にその表情は険しくなる。
そんな二人の表情を確認した後、夢主(姉)は再び口を開いた。
「何年後から・・・というような知識は私には無いので、そのあたりは妹から聞いてください。」
と、にこりといつものように微笑む。
「何故、どういう経路で・・・は全くわかりません。ここへ連行されたあの晩、気が付いたらあの場にいました。その後千鶴ちゃんと共に浪士から逃げていた所からはあの日妹が話しました。」
夢主(姉)は張り詰めたその場の空気に飲まれることなく淡々とそう言いのけると、言葉を待つようにじっと土方を見つめた。
土方は眉間に皺を寄せて、夢主(姉)を見る。
土方は、江戸へ向かった永倉達に、この姉妹の実家を探索させていた。
夢主(妹)からの話で出た故郷だという辺りを探索した結果、「苗字」という家はあったものの、姉妹がいるという話は一向に出てこなかった。
女であれだけの剣術の腕があれば目立つ。
それに、夢主(妹)にはその辺の良い家の出の武士や金持ちの商人にも劣らない程の学がある。
剣術を身に付け学もあるのだから、ある程度身分のある家の娘なのだろうという憶測だったが、探索しても出てこなかった。