第8章 1864年【後期】決意の時
二人の会議が終わったところへ、夢主(姉)が呼ばれた。
「おめぇのことだから覚悟の上なことは承知だ。だがな…ただ酌してまわるだけじゃねぇってことまで覚悟できてんだろうな?」
土方は紫色の鋭い瞳で夢主(姉)を睨みながら言う。
「はい。」
「客を選べるようになるには相当昇りつめなきゃならねぇ。それもわかるか?」
「はい。」
「わかった。」
土方の表情は厳しいままだが、目元は少し柔らかい。
夢主(姉)の芸妓への道は、夢主(姉)自身も驚くほどあっさりと決まった。
だが、呼ばれたのはその話だけではなさそうだった。
「ひとつ聞いておきてぇことがある。」
土方は声を低めて、再び夢主(姉)を見据えた。
その隣には同じく鋭い瞳を向けている山南の姿もある。
あまり良い話ではなさそうだな、と二人の雰囲気から読み取った夢主(姉)は、背筋をのばし、
「なんでしょうか。」
と、静かに聞いた。
土方は腕を組んで目を閉じて、何か覚悟をきめたようにふぅ、と深い呼吸を一度すると、ゆっくりと目を開けて、目の前に座る夢主(姉)を見た。
「おめぇ達は本当はどこから来た?」
低く呟かれるように言われたその言葉に、夢主(姉)の体に緊張が走った。
そこを突っ込まれるとは思ってもいなかった。
さすがの夢主(姉)でも咄嗟に言葉は出てこず、動揺を隠すことに全力を注ぐしかない。
「おめぇらの嘘を見抜けないほど、俺も間抜けじゃねぇよ。」
固まっている夢主(姉)に、土方はふっと笑みをこぼした。
「今更、間者だと疑ってるわけでもねぇが…おめぇは密偵としてできすぎてる。敵を欺くにはまず味方から、なんて言葉もあるしな。今更何言われても驚きゃしねぇよ。話せ。」
まっすぐと夢主(姉)を見据える紫の瞳は、ここへはじめて来た時の疑いの眼差しとは違った。
「妹を…夢主(妹)もここへ呼んでくださいますか?」
「…いいだろう。」