第8章 1864年【後期】決意の時
相談すること。
それは前から考えていたアレだ。
それは…
「山南さん。私、芸妓になりたいです。」
笑顔はつくらず、真剣に…山南さんの目をしっかり見ながら私は言った。
「…………」
「ずっと考えてました。新選組に命を使うと決めた日から…。本格的に考えたのは最近ですけど。」
左腕をさするのをやめて、私を真剣な眼差しで見つめてる。
その表情は冷たいものではなかった。
「もちろん私は監察方兼諸士調役ですので、諜報活動が目的です。でも…それだけじゃないんです。これは自分勝手な理由になるので…」
山南さんは黙ったまま私の話を聞いてくれる。
「私は、自分を新選組の一員だと思ってます。もちろん隊士さんと同じく隊規を守るつもりでいますし、それ相応の罰を受ける覚悟もできています。でも…武士にはなれない。」
ひとつひとつ、初めて口にする想いを、自分自身にも刻みながら声に出した。
「そして…皆さんが武士でいたいのと同じくらい、私は女としての道を歩きたい。だからって、普通の生活をしたいって言ってるんじゃないんです。新選組の監察方兼諸士調役は、私にとって誇りですから…」
しばらく沈黙が続いて、私達は目を合わせたまま動かなかった。
私は真剣だった表情を崩して、にこりとしてから、
「だって…男装で一生を終えたくないですし。それに…私の男装って…一般隊士の前に出れない。新しい隊士さんが増えるなら、いっそのこと外に出てた方がいい気がします。」
少し軽めにそう付け加えた。
黙ったまま、私の話を聞いている山南さんに、私はさらに話を続ける。
「ただ…どうやったらなれますかね?いろいろ作法が厳しそうですし…。私の年齢的にも、はじめから見習うのは無理だろうし…。」
一度入れば出れるのかもわからないし、どんな仕組みなのか私には見当もつかなかった。
「………厳しいですよ。花街で生きるのは。」
「もちろん、承知です。…全て。」
じっと黙って聞いていた山南さんは、私の真意を見るように、私の目から視線をはずさなかった。
そして、ふぅ…とひとつ、大きく息をこぼす。