第8章 1864年【後期】決意の時
「失礼します」
土方さんに呼ばれるのはめずらしい。
私の事が嫌いなのかなんなのか、山崎さんや夢主(妹)から言付けされることが大半で、むしろ二人きりで話したことなんてないんじゃないか・・・っていうくらいめずらしい。
なんだか緊張する。何を言われるのだろう・・・
「入れ」
と、言う土方さんの声は感情が読めない物で更に緊張してくる。
夢主(妹)ってすごいな・・・なんて思いながら、襖を開けた。
「めずらしいですね。土方さんが私を呼ぶなんて。」
入ってそうそう笑顔でそう言えば、はぁ、と、小さく溜息をつかれた。
「山崎から聞いてるとは思うが―――」
山崎さんが言ってた新入幹部さんは、参謀という立場で迎えるらしく、話の内容からして山南さんより上の立場みたい。
「それでだ。お前に頼みたいのは・・・」
「山南さん・・・・・・ですよね?」
「ああ」
土方さんは腕を組んだまま、目を閉じて、何やら考えているように見えた。
「・・・山南さん、最近、ぜんっぜん元気ないです。私のこともなんとなく避けてるし。気にしないでお部屋にお邪魔してますけど・・・すぐ帰されちゃいます。」
山南さんのところへは、よく遊びに行くのだけれど・・・本当に最近は、わざとなのかなんなのか・・・冷たくあしらわれることが多かった。
冷たくあしらわれる度に、ちょっと悲しい気分になるのだけれど、あえて気にしていないフリをしてる。
「いや?お前と話してる時の山南さんは、わりと穏やかな顔してるぜ?」
少しにやつきながら、土方さんはそう言って、
「おめぇになら止められるかもしれねぇ」
と、小さく小さく呟いた。
それはどういうことですか、という意味をこめて、土方さんの目をじっと見つめてみる。
「いや、こっちの話だ」
うん、やっぱりあの「薬」のことに違いない。
聞いてみようか・・・
いや・・・
―――深く詮索するな。
土方さんの鋭い瞳がそう言ってるようなきがして、やめておくことにした。
「・・・はい」
にこりと笑ってそう言えば、土方さんから再び小さく溜息が聞こえた。