第8章 1864年【後期】決意の時
その場にころんと寝転がって、うつむせになると、肘をついて手の平に顎をのせた。
こんな格好をするのは山崎さんの前くらい。
ほんとにここはリラックスできる唯一の場所。
そんな私の行動に、はじめのうちは「女子がそんな格好を―――」とかなんとかいろいろ言われたけれど、いいかげん慣れてくれた山崎さんは、かまわずに話を続ける。
「幹部が一人増えるようだ。しかも組長より上・・・総長と同じ、もしくはそれ以上の待遇をせねばならないらしい。」
声を低めてわずかな声量で言う山崎さんの表情は険しい。
「え・・・それって・・・」
山南さんのネガティブ度がメーター振り切っちゃうんじゃ・・・
思わず固まってしまった私に、ふぅ・・・とひとつ息をついてから、
「そうなんだ。夢主(姉)君、君が今思ったことを副長も心配されている。」
なんだか嫌な予感がする。
山南さんは最近本当に元気がない。
そして・・・7月の・・・あの日に聞いた「薬」の話・・・
「薬」のこと、山崎さんに聞いてみようかとも思ったけれど、自分の中の直感的な物が警報を鳴らしているから・・・下手に踏み込めない。
「後は・・・新入の一般隊士達の手前、今まで以上に隊規が厳しい物になるだろうな。」
とにかく、江戸から局長が帰ってきたら忙しくなるぞ、と、山崎さんは言い切って、お茶を一口飲んだ。
この狭い屯所に隊士が増えるのよね?
しかも幹部さんが増える・・・
「あ、ねぇ山崎さん。」
私は寝転んでいた体を起こして、書き物を始めた山崎さんの後ろに背筋を伸ばして座りなおした。
「ん?なんだ?」
書き物をしたまま返事をする山崎さんに、
「そのお偉いさんには、私達の性別は明かすのかな?」
と、疑問を投げかけてみた。
山崎さんは書き物の手を止めて、こちらに向き直ると、
「いや・・・まだわからない。これは俺の見解だが・・・恐らく・・・伏せるだろうな。」
「ですよね・・・。ってことは私は幹部だけの場にも行けなくなるってことかぁ…」
これは・・・辛いかもしれない・・・
ずっと隠れていないとダメになる。