第7章 1864年ー元治元年ー【後期】
「ぎゅーーーってしてくれない?」
「はぁ?」
何言ってんのこのコ。
今僕に押し倒されたばっかりなのに。
いつもにこにこしてる顔は真顔で、目は少し潤んでる。
「・・・だめ?」
上半身を起こしたままの姿勢で・・・僕のせいですこしだけ乱れた着物を直しながら、上目遣いにそんなことを言ってる。
ああ・・・苛々する。
・・・山南さんにも一君にも山崎君にもこんなことをしてるの?
僕も一緒にしないでよ。
「ごめんなさい。今の忘れて?」
少し怒りを覚えた僕に、夢主(姉)ちゃんはそう言って立ち上がった。
そして、いつもみたいににこり、と笑って、
「じゃ。お薬はやっぱり後で千鶴ちゃんにお願いしまーす。」
と、いつもの暢気な声に戻ってる。
さっきの真顔の時に、一瞬だけなんだか寂しそうで苦しそうな表情が見えた。
それも演技か何かなんでしょ?って思ったけど・・・
「夢主(姉)ちゃん」
襖を開けて出ていこうとしてる夢主(姉)ちゃんに声をかけると、振り向いた顔に、さっきのなんだか寂しそうで苦しそうな表情が一瞬見えた気がしたから・・・
襖を開けようとしてる手を掴んで、引き寄せる。
そしてお願いされた通り、ぎゅっと抱きしめた。
もしかしたら。
もしかしたらだけど・・・
夢主(姉)ちゃんは辛いのかもしれない。
寂しいのかもしれない。
何処から来たのかわからないし、何者かもわからないけど。
そうだよね?
ここは新選組の屯所なんだもの。
女の子がいていい場所じゃない。
死体だって怖いよね。
戦いだって嫌なはずだよ。
でも、なんで君は平気なふりをしているの?
それとも本当に平気なの?
抱きしめた夢主(姉)ちゃんから伝わる肌の体温が、思ったよりも心地よかった。
最近、咳のせいでやるせない気持ちになるんだ。
こんなんじゃ皆に置いてかれるんじゃないかって。
近藤さんの力になれないんじゃないかって。
夢主(姉)ちゃんの腕が僕の腰あたりにまわされて、ぎゅうって力が込められた。
抱きしめられたかったのは僕も同じかもしれない。
あーあ。
僕は絶対丸め込まれないって思ってたのに。
夢主(姉)ちゃん、今僕に抱きしめられてる君は本物?