第7章 1864年ー元治元年ー【後期】
ごろん、と湯呑みが落ちて、薬が溶けたぬるい湯も一緒に飛び散った。
「あ~あ・・・」
手首を掴んでるのに、そこには全然驚いてない様子で、湯呑みの行方を心配してる夢主(姉)ちゃんの腕を強引にひっぱって立たせると、そのまま目の前にある自室に無理やり連れて行く。
襖を乱暴に閉めて、どん、と夢主(姉)ちゃんを突き飛ばせば、案の定夢主(姉)ちゃんは転がった。
転がった夢主(姉)ちゃんの手首を押さえてその場で組敷く。
さすがに驚いた顔をしている夢主(姉)ちゃんを、冷たい顔を作って見下ろした。
「抵抗しなよ。」
何故だか一切抵抗しない夢主(姉)ちゃんに、こんな体勢を作った僕が怯みそうになる。
「抵抗しないとほんとにこのまましちゃうよ?」
僕に無理やり押し倒されてるのに。
抵抗しなよ。
やめて、って叫んだっていい。
首筋に顔を近づければ、あの日の布団と同じ匂いがした。
「・・・・・・やめた」
ほんとにこのまま続けたら、どうにかなるのは僕の方だ。
夢主(姉)ちゃんから体を離して立ち上がる。
まだ寝転んだままの夢主(姉)ちゃんを見れば、まだそのまま動かない。
「いつまでそうしてるつもり?ほんとにして欲しいの?」
なかなか起き上がらない夢主(姉)ちゃんにそう言えば、
「びっくりした~・・・・・」
と、相変わらずの暢気な声が聞こえた。
そして寝転んだまま、両手で顔を覆って、ふぅ、なんて一つため息をついてる。
なあんだ・・・ほんとはびっくりして固まってただけなんじゃない。
ごめん、なんて言わないよ。
はぁ・・・と両手で口元を押さえながらため息をもうひとつついた夢主(姉)ちゃんは、やっと上半身を起こした。
立ち上がってそんな同行を見てた僕を無言で見上げる夢主(姉)ちゃんの目の前にしゃがみこんで顔を覗けば、少しだけ涙目だった。
怖かったの?
そんな風に見えなかったけど。
「ねえ沖田さん・・・」
夢主(姉)ちゃんはいつもの暢気な声色ではなくて、少し小さくてやわらかい・・・弱々しい声で僕を呼ぶと、
「お願いがあるんだけど・・・」
目の前にしゃがみこむ僕に、真剣な顔で言う。