第7章 1864年ー元治元年ー【後期】
町人になって過ごしていると、たまに…自分は何者なのか、何をしてるのか一瞬わからなくなる。
次の瞬間には、ああ私は情報を収集してるんだ、ってすぐに思い出すけれど。
嫌なわけじゃなくて…諸士調役はむしろ天職なんじゃないかって最近は感じるけど、自分の進むところというか…在り方というか…よく考えるとカチっと音が鳴らないまま日々過ごしてる気がする。
相変わらずざあざあと降り続く雨空を見上げて、下腹あたりをさすりながら、ぼーっと考えていた。
「姉ちゃん、冷えるか?顔色が悪りい。」
隊士さんが私に話しかけようと、もじもじしているのをわざと気づかないふりをしていたのだけれど。
そんな様子を見かねたのか、原田さんが隊士さんの頭越しから話しかけてきた。
「いいえ。大丈夫です。雨…止まへんかなあ…」
生理通がはんぱないです、なんて言えるわけもなく、私は合ってるかわからない京言葉で返事をする。
そうしていると、もじもじとしていた隊士さんが、私の足元をじっと見つめているのに気がついた。
鼻緒、切れてるの気づかれたかな。
なんだか恥ずかしい。
足袋は履いていないし、素足に下駄で…さっき転んでしまったから泥も少しついてる。
ちょっと!そんなに見ないでよ。
いたたまれなくなって、
「あの…?」
と、声を出してみた。
「あ…その、すまないっ。鼻緒が切れているようだが…」
そう言って少し赤くなった隊士さんは、私の足元から目を離した。
「さっき転んでしまって。」
ふぅ、とひとつため息をつく。
他の隊士さん達はいけいけとばかりに、その隊士さんを煽ってる。
そして、
「失礼っ」
そう言いながらばっとかがんで、私の足から下駄を取ろうとするものだから、思わずきゃあ、と悲鳴をあげてしまった。
「す、すまないっ」
あたふたしている隊士さんに、原田さんがため息まじりに苦笑しながら寄って来た。
「悪いな姉ちゃん。こいつに悪気はねえんだ。」
そして、隊士さんの肩をぽん、と叩くと、
「その下駄じゃあ雨があがっても歩けねぇだろ。直すから脱いでくれるか?」
そう言って少し私に近づいた。