第7章 1864年ー元治元年ー【後期】
ぽつりぽつり…
大粒の雨が空から落ちて来て、いつのまにかざーざーと大きな音を立てて大雨になってしまった。
暑い気温は雨で生温くなり、湿気をおびた空気は蒸してて気持ち悪い。
あ~あ…
お店に帰るまでは降らないと思ってたのに…
雲行きが怪しくて、小走りをしたら転んでしまって着物を汚してしまった上に鼻緒まで切れてしまった。
いつもの私なら、手ぬぐいで適当に鼻緒を直して、すぐに走り出すところなのだけど今日はあいにく生理中。
こんな天気なのもあって、頭痛、腰痛、腹痛…と、嫌な痛みが勢揃いしてしまった。
諜報活動の為に働きはじめた甘味屋さんのおつかいからの帰り道。
痛みを堪えて動きまわることに苦はなかったはずなのに、転んでしまった事とこの大雨で、完全に心が折れてしまった。
お腹痛い…
民家の屋根下を借りて雨をしのぐ。
帯の下あたりをさすりながら、激しく降る薄暗い雨空を見上げた。
早く戻らないといけないのに、お店へ戻る策も練らずにぼーっと雨が落ちてくるのを見ている。
「―――組長、ここで雨宿りしましょう」
雨音と共に、聞き慣れた呼び名が聞こえてきた。
ちらりとそちらを見れば、原田さんと…あれは十番組の隊士さん達。
監察方とは外で会っても言葉を交わさないのが基本。
それに、平隊士さん達には私の顔は知られていない。
いろんなことが重なってやる気ゼロだった私は、声をかけることはできないけれど、知ってる顔に会えて少し嬉しくなった。
「どうします?走りますか?」
「まあこのまま走って帰ってもいいが……」
言葉を切った原田さんの視線を感じて、ちらりと見れば、少し驚いた顔をした原田さんと目が合ったから、軽く会釈する。
「あっ!君は確か…甘味屋の…」
原田さんの横にいた隊士さんの一人が、私に声をかけてきた。
にこりと笑って会釈で返した。
その隊士さんは他の隊士さん達からからかわれつつ、
「あ、ああ。団子を買いに行った時に…その…」
「おおきに。」
長く会話ができるほど、京の言葉は使えないから、とりあえず微笑んでお礼を言った。
その後ろにいる原田さんをちらりと見れば、そんな隊士さんと私のやりとりをほほえましいとばかりに優しい瞳で見ていて、なんだかくすぐったい。