第6章 1864年ー文久四年・元治元年ー【中期】
一方夢主(妹)は、茶を配りながら、
とうとう来たんだ…禁門の変…
でもだめだ…史実のくわしい出来事なんて知識がない。
もう何も考えずに、自分のできることを精一杯やろう。
何も考えるな考えるな…
と、自身の中の知る史実と何もできないというふがいなさ…そんな葛藤を振り切ろうとしていた。
両手で自分の頬をペチペチと叩いて、なんとか気合いを入れる。
「…では、足手まといな怪我人は、屯所で待機しておきましょうね。…藤堂君、沖田君…君達もですよ。」
そう言った山南の表情は明るくは無い。
自分は大丈夫だ、と言い張る藤堂とは違い、沖田は溜息をひとつついて留守番を認めた。
「あ~あ。せっかくの晴れ舞台なのに。こんなの大した怪我じゃねーっての」
「いやいや、その傷けっこうヤバそうだよ?」
ふて腐れる藤堂の額を、夢主(妹)は軽く突くと、
「いてっ」
藤堂は額を抑える。
「ほら、痛いんじゃん」
「ちきしょー。うらやましいぜ。俺の分まで頑張って来いよな!」
「うん!」
諦めた藤堂は、夢主(妹)の背中をバシバシ叩いて、激励をした。
「雪村君は、屯所に居てくれ。」
意気揚々とする幹部達と違い、戦が近い事への不安と緊張で表情が固くなっていた千鶴に、近藤はそう言うと、
「そんな顔しなくても大丈夫だよ。」
と、笑った。
そんな近藤の気遣いに、千鶴は表情を緩めると、「はい」と、笑顔で応えた。
そして、幹部会議の時には姿がなかった監察方の面々も、広間へいつのまにか集まり、土方の指示を受けている。
「夢主(姉)、お前も屯所にいろ。屯所に何かあった時の連絡はお前の足が一番速ええだろ。後は山崎と島田に指示を聞け。」
「は~い」
夢主(姉)は笑顔で答えると、山崎、島田と共に、広間を出て行った。