第6章 1864年ー文久四年・元治元年ー【中期】
次の日はめずらしくお仕事をお休みもらえて、だからと言って自由に外出できるわけでもないから、暑いし足を水に浸けようかなぁ・・・と、隊士さん達の目を盗んで井戸へ向かう。
井戸へ行くと、斎藤さんの姿があった。
朝ではないし今は昼過ぎ。
おはようございますじゃないし、こんにちは?だと、なんだか呑気だし…と、どう声をかけてよいのやら迷って、
「おつかれさまです」
と、バイト先の先輩に挨拶する感覚で、当番なのか桶に水を汲んでいる斎藤さんに声をかけた。
どうにもおかしなテンションで声をかけてしまったために、振り向いた斎藤さんは少し眉をしかめて怪訝な顔をしてる。
そんな斎藤さんの様子は構わずに、にこりと笑顔を向けた。
そうすれば、珍しく斎藤さんが少しだけ笑ったような気がして、なんだかとっても嬉しくなった。
そのまま特に会話もなく、井戸が空くのをぼーっと待つ。
ああ、そうだ…
斎藤さんの志?ってなんだろう。
池田屋で感じた、責任の重さ。
斎藤さんの水を汲む様子を後ろから見ていたら、意気揚々と戦っているここの人達のことを思い出した。
京での評判だって悪い。
私の仕事は、嫌でもいろんな情報を耳にする。
何度新選組の悪口を聞いたことか。
そんなことを考えながら、斎藤さんの後ろ姿をじっと見ていると…
「何か俺に言いたいようだが」
斎藤さんは水がいっぱいに入った桶を持って、こちらを向いている。
なんかここの人達って、気配とか視線に気がつくのが鋭すぎる。
「いえ・・・ちょっといろいろ考えてただけです」
少し慌ててそう返せば、斎藤さんはふっ、と静かに笑った。
「今日のあんたはいつもより幼く見える。」
優しく微笑んだまま、斎藤さんはそう言うと、
「少し安心をした。」
と、微笑んだ。