第6章 1864年ー文久四年・元治元年ー【中期】
「―――土方さん」
息を整える間もなく、土方隊の灯火を見つけた夢主(姉)は、気配のないまま土方の元へ近づく。
「お前・・・それ――」
夢主(姉)に気がついた原田は、夢主(姉)の手元の刀を見て目を見開いた。
手に持ったままだった夢主(姉)の刀には、先ほど浪士の脚を斬ったと思われる血がついている。
原田の言葉をさえぎって、
「本命は池田屋」
さすがに息があがっているために、言葉短く土方へ伝えた。
「あっちか・・・」
「・・・夢主(妹)が・・・山南さんの命礼の元、池田屋へ先に向かいました。」
そう夢主(姉)が言い終えると、土方の眉間に深い皺が現れた。
「なんだと?」
「夢主(妹)は山南さんから隊服も預かっています。池田屋までは山崎さんが同行してます。」
土方は眉間の皺を深くさせながら、苦しそうな表情をしている。
そんな土方を気にすることもなく、夢主(姉)の報告は続く。
「会津藩、所司代共に準備は万端みたいです。意気揚々と人も集まってますが、さっきのさっきまで動く様子はなかったです。」
「分かった」
怖い顔をしながら土方は隊士達の方を向くと、斎藤と原田に池田屋へ向かうよう指示を出した。
即座に隊を率いて二人は動き出す。
夢主(姉)は、ふぅ、とやっと息を整えようと、大きく息を吐くと、持ったままの刀に目を向けた。
―――斬ったんだ、人を。
既に乾いてしまって、刀にこびりついている血を見て、夢主(姉)は少し震えた。
即死をさせるような箇所ではなかったし、致死に値する傷をつけたとも思えない。
でも、出血多量で死ぬかもしれないし、傷口から感染症などを起こして死ぬかもしれない。
整えたはずの息が、どんどん荒くなるのがわかった。
ぽん、と肩に掌が乗る感触がする。
「あんたは仕事を全うしたまでだ。」
私の心を読んだの?
そう思えるほど、タイムリーな斎藤の言葉に、夢主(姉)は言葉が出てこなかった。
もちろん、いつもの笑みすら作れない。
そんな夢主(姉)の肩からそっと手を離すと、斎藤はすぐに隊士達の所へ戻って行った。