第6章 1864年ー文久四年・元治元年ー【中期】
「忍者部」夢主(姉)は、山崎がどこからかあつらえて来た黒い装束に、つい最近斎藤に見立ててもらった一本の刀を、動きやすさを重視して、腰に帯刀せずにまるでRPGの勇者のように背負っていた。
監察方となって、この格好をするのは初めてである。
刀を抜いて向かってくる浪士に、後ずさりしつつも間合いを取りながら、夢主(姉)は背の刀に手をかける。
刀をぎゅっと掴む掌は、緊張で汗をかいていた。
夢主(妹)同様、最近はこの真剣で素振りはしているものの、実際使ったことなどない。
更には、夢主(妹)ほどの実力もない。
夢主(姉)は刀を抜いて、斬りかかってくる浪士の刃をかわした。
幸運にも相手の剣術の腕はあまりないのか、隙だらけの体勢でこちらへ向かってくるように見える。
それくらいなら容易にかわせた。
間合いを取りながらお互いを見つめあう中、時折猛突進して来る浪士をかわし続ける。
これじゃ時間がかかりすぎる・・・
相手を巻くにも、かわし続けている時間はない。
早く土方隊に合流しなくてはならなかった。
気持ちが焦る。
夢主(姉)は、ぎゅっと刀を持つ手に力を入れると、何度目であろうか…猛突進して来た浪士の脚を狙った。
「―――んがっ」
浪士は崩れながらも刀を頭上に振りかざして突進して来るが、崩れた体勢は、振り切るには十分だった。
夢主(姉)はその浪士から素早く離れ、刀は抜いたまま握り締めると、一目散に走り出す。
振り返りたい衝動にかられたが、前だけを見て走った。