第6章 1864年ー文久四年・元治元年ー【中期】
屯所を出た三人は、全力で走った。
途中までは池田屋へ向かう夢主(妹)と、土方隊へ向かう山崎、夢主(姉)と、走る方向は同じだ。
とにかく全力で走る。
行く道が分岐点に差し掛かかると、山崎と夢主(姉)は目配せをしてお互いにうなずく。
「じゃあまた後で。お互い無事でいようね。」
走りながら静かな声で夢主(姉)は言うと、返事は待たずにそのまま暗闇へ消えて行った。
ここからは一人だ、と、夢主(妹)はさらに気を張った。
走りながらも緊張が増してくる。
まだ涼しい夜風が、緊張でいつのまにか汗をかいていた体を冷やした。
余計な事は考えちゃダメだ!
新選組がこのまま池田屋で人を沢山斬る。
現代の平和しか知らない夢主(妹)には、池田屋での企みを阻止する方法はそれしか本当にないのか?など、今まで散々考えてきた事が再び脳内に蘇る。
それでも事が動き出した今は、新選組のみんなの無事がなによりも気になった。
千鶴大丈夫かな?
しんぱっつぁん、沖田さん、平助…
今朝、藤堂と永倉とは稽古を共にしたばかりだった。
笑っていた二人を思い出す。
「夢主(妹)君」
背後から山崎の声がした。
あれ?お姉ちゃんと一緒なんじゃ・・・・
「間違ってない、大丈夫。…夢主(姉)君からの伝言だ。」
夢主(姉)は走るのが早い。
「忍者部活動」を沢山していた為、それを当たり前に知っている山崎は、土方への報告を彼女に任せた。
本当は夢主(妹)と一緒に来たかっただろう夢主(姉)の代わりに、池田屋まで見守ることにしたのだ。
「山崎さんありがとう」
ぐるぐると巡る考えに、頭も心も押しつぶされそうになっていた夢主(妹)は、山崎からの伝言がじんわりと湯に浸かったように胸に広がり、曇っていた視界が晴れた。
「この先を曲がれば池田屋だ。無理はしないでくれ。」
山崎からの言葉を背に、考えを振り切って全力で池田屋を目指した。
一方、一人別れて走る夢主(姉)の元へは、池田屋と関係あるのかないのか…はたまたただの辻斬りか…浪士が立ちはだかっていた。