第6章 1864年ー文久四年・元治元年ー【中期】
ああ、やっと・・・
自分の知っている事に、現実が追いついてくる。
夢主(妹)は下ろした両手に、ぎゅっと拳を作ると、ぎゅうとそこに力をこめた。
「夢主(妹)君、覚悟はできていますか?」
それは静かな声色だった。
ふいに聞かれて、夢主(妹)は目を見開いて山南を見る。
「池田屋には今十名しかいません。急いで副長率いる隊が向かったとしても、少し時間がかかってしまいます。私が、何を言いたいのかわかりますね?」
ドクン、夢主(妹)の心臓が大きく鳴った。
行けと。
池田屋へ。
山南さんは私にそう言ってくれてる。
戦力になれと・・・
「は、はい!」
大きな声で、返事をした。
「もう一度聞きます。・・・覚悟は出来ていますか?」
山南の瞳は更に鋭さを増していた。
覚悟・・・その言葉に、いろいろな意味がこめられているのがわかる。
「はいっ」
夢主(妹)は、腹から出る力のこもった声で山南の真剣で鋭い視線に応えた。
「では・・・私の隊服を持っていきなさい。隊士達は夜目が効くといっても、浪士との区別ははっきりしたほうが安全です。」
山南は自分の隊服を夢主(妹)に渡すと、山崎と夢主(姉)の方に向き、
「山崎君と夢主(姉)君は副長のもとへ。よろしくおねがいしますね?」
と、指示を出した。
「承知いたしました」
山崎は山南にそう言い、一礼すると、夢主(姉)と目配せをする。
山南の隊服を抱える夢主(妹)に、夢主(姉)は視線をむけ、それに気がついた夢主(妹)も夢主(姉)を見た。
夢主(姉)は夢主(妹)の目を見て微笑む。
お姉ちゃんが笑っていれば大丈夫・・・
その笑顔を見て心を落ち着けた夢主(妹)は精神を集中させた。
出がけに、
「その隊服は、池田屋へ到着してから着るのですよ。一人で向かうには危険ですから。」
と、山南は言い、そして何度も「全力で走りなさい」と言って、夢主(妹)のことを案じた。
そして、三人はそれぞれ全力で走り出した。