第1章 季節はずれの桜の木
夢主(妹)は突然の緩急に気が抜け、竹刀を握り締めたままその場に座り込んでしまっている。
「夢主(妹)っ!…よかった…!!」
夢主(姉)は、夢主(妹)に駆け寄ると、涙交じりに抱きしめた。
そして、先ほどから冷たい目でこちらを見ている人物を見上げて、
「あの…ありがとうございました…」
はっきりとした声でそう言った。
場違いな明るい声で「僕がやっちゃいたかったのに」などと、何故だか楽しそうにも見える青年と、その冗談めかしい発言を諌めながらも冷静な空気を纏った青年がそこに居る。
夢主(姉)は冷静な方の男の目をじっと覗き込んでいる。
男はそのまっすぐな眼差しに動揺したように視線をそらした。
すると、楽しげに見える男は軽薄な声色で言う。
「あいつらとこの子達の戦いをもうちょっと見てれば、僕達の手間も省けたかな?」
その言葉に夢主(姉)の表情が強張った。
…味方じゃない。
夢主(姉)は元々直感でものごとを判断する方で、理解するより感じる能力が著しく高かった。
その直感が、危険はまだ回避されていないと告げている。
自然と夢主(妹)を抱きしめる腕に力が入った。
一方、夢主(姉)の腕の中で、夢主(妹)は次第に冷静さを取り戻していた。
…新選組だ。間違いない。
月明かりで色はよくわからないけれど、袖口が特徴的な羽織。組織を匂わす言動。そして…文久三年という時代。
夢主(姉)とは逆に夢主(妹)は状況を理解しようと懸命に脳を働かせた。