【イケメン戦国】*ヒメゴト* 戦国時代に舞い降りた現代の姫
第2章 夢見る如く
最初は親への反抗のつもりで始めた車も、そのスリルが麻薬のようで、没頭していて。
いつ死んでも良いや、とか思いつつ走っていた。
でも、いつのまにか、走るのも好きになっていた。
だからプロの道に進んでまで、車を走らせているわけなのだけど。
軽く充満するガソリンの匂いと、響くエキゾースト。
あたりは真っ暗で、車内のパネルの光と、自分のライトだけが頼りだ。
(気持ちいいー……)
少し開いたウィンドウから車内に入る夜風が、由里の髪をゆらす。
今晩は仕事も早く終わったので、近く山に走りに来た。
本当は、プロのドライバーという職業柄、禁止されているので完全オフレコだ。
それでも、この疾走感がやめられないのは、「好き」だけなのか、否、麻薬のようで。
脳を支配して、一日、24時間、考えてしまうのだ。
一日に何週も、一か月に何日も同じ道を走っていれば、自然と「道」を覚えるのは当たり前だ。
この山も例外なく、草木が茂っているところ、落ちているところ。
道路の小石がたまっているところ。溝の位置。
ほとんど把握していた。
だけど。
「……っ!?」
不意に、自分の手足といってもおかしくない愛車が、わずかに上下してきしんだ。
パァァァン!!
つんざくようなけたたましい音が響いたことで、タイヤがパンクしたことを由里は理解した。
もちろん、プロだからこそ、日ごろから愛車の手入れは怠らない。
タイヤが劣化していたら、すぐに見抜けるはずだ。
だけど――…
(やばっ……この先……!!)
そう、この道を記憶しているからわかる、
この先は、ガードレールがない、崖になっている地帯――。
考えるより先に手が動いた。
無意識にステアリングを、通常に戻そうとするが。
もう、修正できない位置にいた。
このままいけば、崖に真っ逆さま――。
(ッ……!!!)
オーバースピードの流れる景色を目に、
由里は、死を覚悟した――。