第1章 ぷろろーぐ
通りゃんせ通りゃんせ~
歌が聞こえる。
こーこはどーこの細道じゃ~
女の声が聞こえる。
鬼神様の細道じゃ~
月上がりに照らされて
ちーと通してくだしゃんせ~
銀色の髪をフワフワと揺らせながら、男はその声に誘われる。
ジャリッ―
意図しない足音に声が止まった。
しかしその声の持ち主は既に男の視界に捉えられていた。
「女がこんな夜更けに稽古たぁ無用心すぎやしないか?」
昼間、坊主と話していた橋の欄干に腰を下ろし、チラリと男を見やる。
その瞳に心臓が飛び跳ねた。
金箔のような瞳は決して月明かりのせいではないだろう。
そして、その瞳の色を、男は確かに覚えていた。
昼間まで。否、その眼を見るまでは忘れていたのに…。
「…白夜叉」
透き通る声で昔の通り名を呼ばれ、死んだ魚のような眼が一瞬で釣り上がる。
軽関心をむき出しにした彼を余所に女はふわっと栗色の長い髪を靡かせて舞い上がった。
「やっと、会えた…」
「――――っ!!」
愛用の木刀に手をかけたが、女の足が地面に着くことなくそのまま男の胸に倒れ込んできた。
「えっ?!ちょおおぉぉぉ!!!!」
咄嗟に抱き止めて倒れ込むことは避けされたが、あまりの無抵抗さに違和感を感じるよ早く体が反応する。
「おいっ!なんだ?!気ィ失ったのか?!」
「・・・・・・・ZZzzzzz」
「寝てんのかいッ!!!!」
気持ちよさそうに寝息を立てる女をそのままにしておく無責任さもなく、仕方なく抱き上げて自宅へと連れ帰ることにした。