第1章 ぷろろーぐ
「ひみこ?」
「そう、緋美虎だ。お前は覚えているか?」
橋の隅で座る法衣を纏った怪しげな坊主の隣で銀髪の男が柵に寄りかかる。
先ほど聞いた名をもう一度口にし記憶を巡らせてみた。
「その様子じゃ覚えとらんのだな」
図星を刺され癖のある頭をポリポリと掻く。
「最近浪士達の間でその名が一人歩きしはじめてな。といっても噂しているのは過激派の下っ端どもなんだが、どうも気になってな」
「・・・・・」
「当時も名ばかりが広まり姿を見たものは殆どおらぬ伝説のような奴だったが、銀時。お前はあったことがあると言っておったと記憶しているが…」
「知らねーな」
「そうか」
「話は終ェか?」
「もし、思い出したら俺の言葉を忘れるな。“緋美虎には気をつけろ”。」
「気をつけろってったって…ってぇ、もう居ねぇや」
空を仰いだ一瞬の隙に胡散臭い坊主は姿を消していた。
まるで最初から居なかったかのように…。
「緋美虎か。」
三度その名を口にし歩き出した。
その瞬間から、彼は騒動の渦中に巻き込まれていたことなど知る由もない…。