第1章 【 君への贈り物 】
「俺は…書いてない」
「えっ?」
家康の言葉に寂しさと驚きが隠せずに茫然としてしまった。
「…そのかわり」
「きゃっ」
家康はグイッと私の手首を引き寄せ、腰に手を回し力強く抱きしめる。
「…一度しか言わないから。ちゃんと聞きなよ。」
家康は恥ずかしさを隠すように私の首元へ顔を埋める。
そして意を決したように、ぽつりぽつりと話していく。
「素直なところ」
「一生懸命なところ」
「ふにゃふにゃ笑うところ…」
家康が話す度に吐息がかかり、背中がゾクリとする。
声を漏らさないように必死に堪えていると
それに気づいた家康は
首筋から頬へと、柔らかい唇で口づけを落としていく
「んっ…、…ぁ」
目に涙をうっすら浮かべながら、家康の顔を見ると満足そうな顔をしている。
くすっと笑いをこぼした後、
「こうやって…バカみたいに可愛いところも」
「もう全部俺のものだから。…一生ね。」
「ちゃんと覚悟…しなよ?」
熱を帯び、きらきらと輝く翡翠色の瞳が優しく私を見つめる。
瞳に見惚れて、思わず息を詰まらせた。
「はい…」
やっとの思いで返事をする。
本当はちゃんと返事したかったけど、今の私は幸せすぎてその一言を言うのが精一杯だった。
その代り私は家康を抱きしめる手に力を込める。
『離さないでね』と伝えるように。
家康もまた、私の想いに応えるように抱きしめる腕に力を込めた。
「…生まれてきてくれて、ありがとう」
家康がそう優しく囁いた後、
美しい光を放つ月と夜空を照らすランタンの優しい光に見守られながら
私たちは何度も何度も甘くて溶けそうになるほどの口づけを交わし続けたのだった――――
* End *