第1章 【 君への贈り物 】
夏の猛暑も過ぎ去り、夜になると秋が近づいていることを知らせるように涼しい風が吹く。
チリンッ―――チリン―――……
風に揺られ心地よい音を響かせる風鈴に耳を傾けながら縁側に腰を掛け、家康の帰りを待っていた。
「家康…遅いなあ」
もう亥の刻になっていた。
時々雲から垣間見える月の明かりと部屋にある行燈の灯りだけが、唯一暗闇に光を照らす。
(今日は曇っているから星も見えない…)
本当に一人ぼっちになっているようで心細くなり、思わず顔をうずめる。
私は心細さを紛らわせるように風鈴の音と鈴虫の鳴き声に聞き入ったのだった。
明日は家康と京都に旅行することになっている。そのため、家康は前倒しで仕事をしてくれていた。
こんな遅い時間まで―――……
それをわかっているから私は何も言えないし、言う権利もない。
ただただ寂しさを堪えながら家康の帰りを待った―――