第1章 明暗
「あはは、ごめんごめん。冗談だよ。
寧ろもうちょい食えって、お前は。」
「う……はい…」
もう既に充分食べているんだけどなぁ、なんて考えつつ彼の肩に重心を預ける。まつりの喧騒が、どこか遠くに聞こえた。
「着いた。」
彼の言葉にはっと気がついて上を見上げると、
「え?ここ…」
「うん、俺のマンション」
見慣れた白い建物を前に彼はバックから鍵を取り出した。
自動ドアが開く音が続いて、彼は私を背負ったままエレベーターへと向かった。
ガチャ、という開閉音と共に扉が開いて、彼の部屋が視界に映り込む。
「はい、靴脱いで。」
「ありがとうございます」
「まずは足洗おうか。雑菌が入っちゃうといけないし」
「はい」
彼に連れられて浴室に行くと、程よい冷水がシャワーから出てきて、足先を濡らす。彼はジーンズの袖を膝あたりまで捲って、水がかからないようにしている。