第1章 明暗
それから数分して、彼は来てくれた。夜景を背負うように私の顔を覗き込んだ彼に慌てて謝ると、なんで謝るの、と笑われた。
「ごめんね、さっきは。足大丈夫?痛いよね」
「いえ…私こそすみません。足は…えと、」
親指と人差し指の間の皮は剥けて、擦れるだけで痛みを感じる。けど、そう言ったら彼は間違いなく帰ろうと言うだろう。
嫌だ。
まだ帰りたくない。もう少し、この人と一緒にー……
そんな私の願いはすぐに崩された。というのも、彼がいち早く私の足の状態に気がついたからなのだが。
「うわ!すごい赤いじゃん!なんでこんなになるまで言わなかったの」
「す、すみません…」
気まずくて少し目を伏せると、彼はため息をついて私の前へかがみ込んだ。
「ほら」
「?」
「おんぶするから。…帰るよ」
「で、でもまだ花火が…」
花火が打ち上がるのは八時から。今はまだ七時を過ぎたばかりだから、あと一時間ほどある。