第1章 明暗
「いたっ…」
足指の間に走った鋭い痛み。チラリとそちらを見れば薄暗い視界の中、履いた下駄が目に入る。
「あ、あの、待ってください」
慌てて声を張り上げるも、喧騒に包まれて、私の声はあえなくかき消されてしまった。
「あっ…」
ドッと人の波に押し寄せられて、私と彼の距離は広がるばかり。どうしようかと悩んでいるうちにも距離はみるみる広がり、あっという間にはぐれてしまった。
…迷子だ。
淡い屋台の光が闇に映え、楽しげな喧騒が私の心をせかす。どうしよう。このままじゃ彼を困らせてしまう。とにかく早く合流しなくては。
とりあえず携帯電話を取り出して操作し、彼の電話番号を表示させながらコールボタンを押す。
無機質な電子音が続き、焦れたように携帯電話を握る私の耳に彼の声が届いたのは、そう早いことではなかった。
「…もしもし、?いまどこ?」
「すみません。靴擦れしてしまって…。いま焼きそばの屋台のわきにいます」
「そっか。ごめんね。俺気が付かなくて…
今すぐ行くから。待ってて」
「はい」