第6章 ● おんなじ空、見上げて
「いらっしゃいませ! 2名様ですか?」
営業スマイルばっちりな店員さんに問われた人数。2名様ですか。
その、2っていう部分に顔がにやけそうになってしまって、慌てて表情筋を引きしめた。
通された席は窓際の。
ひしめくビルたちを臨める四人掛けのソファ席だった。
手中で広げたファミレスのメニューすら超絶絵になる端整な面立ち。もはや彼の存在自体が奇跡なんじゃないかと思うほどかっこいい彼の前髪に、そっと声をかける。
「孝支くん、食べたいの決まった?」
「あっ、んん、もうちょい!」
返ってきた声にそっかあ、なんてふにゃけた笑みで答えて、私はロイヤルミルクティーにしようと心に決めた。
本当はお腹すいてるとか、このハンバーグめっちゃ美味しそうとか、そんなの嘘だ。ぜんぶ嘘。乙女は彼氏の前でがっつり食事とかしない。
女子のプライドと、葛藤と。
メニューをめくっている振りをしながら孤軍悶々としていた私に、今度は彼が声をかけた。
「んー、俺、BLTサンドにするかなー」
BLTサンド。
BLTサンド?
嘘なの、何なの、天使なの?
ああ、神さま。イケメンは食べるものまでイケメンなのですね。肉しか食べない同級生に囲まれているせいで忘れていました。
とか、なんとか。
至極くだらないことを考えていたせいで返事が遅れてしまった。
「それ、私もすき。おいしいよね」
ふわりと微笑を添えて答えれば、ほら、返ってくるのは優しい笑顔。
本当は全然可愛くなんかない私の生態(空腹)を、いつかは彼にも受けとめてもらえるといいなあ。なんて。
それはまだ先のお話、だけどね。