第4章 ● 重なりゆく空
【摩天楼ごしに見える朝焼けがね、黄色なの。レモネードみたい】
孝支くんの空は?
心中で問うて、彼の返信を待った。
きっと
きっと
もう、すぐ傍まで来ているはず。
【俺んとこのも、おんなしだ……夕璃のとおんなし色してる】
おん、なし。
そっか。
同じ、なんだ。
無意識に込みあげる涙。じわりとぼやけていく視界。頭で理解するよりもずっとずっと早く、心が叫びだす。
あんなに離れてた空。
すごく、すごく、遠かった。
決して重なることはなかったのに、私たち、いま同じ空を見てるんだね。
「…………っ」
ほろ、ほろ、ほろ。
感極まって落ちる粒。
柔らかな朝焼けを受けて光るそれは、まるで珠のよう。
数滴こぼした涙の続きはグ、と堪えて、それから眦を拭った。
大好きな孝支くんに会うんだもん。
腫れた目じゃメイクが乗らないし、精一杯のおしゃれを見てほしい。
かわいく在りたいの。
織姫さま、みたいに。
「──……っよし!」
ひとつ、気合いを入れて。
ぺちりと両頬を叩いた。
そう、泣いてる暇なんかないんだ。お出かけの準備をしなくっちゃ。
孝支くんはうちの最寄駅まで来てくれるって言ってたけれど、じっと待つのはもうおしまい。
私も会いに行くんだ、この足で!
【私、バス停まで行く、孝支くんのとこまで飛んでいく!くらいの勢いで走っていくね!】
待ってて。
待っててね孝支くん。
今、会いに行くから。
叫びだしたいくらいの衝動。
ようやく、心に追いついた。
学校に行くときなんかとは比べものにならない超特急のお出かけ準備。原動力は、溢れて溢れてしょうがない「好き」の気持ちだ。
【気をつけてな? 急ぎすぎて転ぶなよ!? そんじゃ、あとちょっとでな!】
灯ったままのトーク画面に表示されたメッセージに、大きく大きく頷いて。
ぎゅううっと握りしめるスマホ。
キラキラのミュールをつっかけ駆け出す、朝焼けの街。
何よりも誰よりも愛しい彼に会えるまで、あと、──30分。
コンクリートを、打ち鳴らせ。
重なりゆく空 ● 了