第2章 ● おしごとしましょ
孝支くんとの約束の日まであと幾ばくもない八月中旬。
私は、とある野外フェスにて売店スタッフを務めていた。
部活がおやすみの今日。
大人たちはお盆で忙しい。
同級生の紹介をうけて派遣会社に登録したのは去年のこと。
女子高生というのは何かとお金がかかるので、たまのオフ日には時折こうして単発バイトをしているのだ。
今回、働こうと決意した理由は他でもない。孝支くんとのデート代を貯めるためである。
思い起こすのは電話ごしの声。
彼の乗る夜行バスについて話していたときの、ほんの些細なやりとり──……
『夜行バスさ、思ってたより財布に優しいやつだったかんなー。俺、すげえ嬉しんだ』
「うれしい?」
『だってその分、夕璃の食べたい物とか、行きたいとことか、よりたくさん連れてったげれるべ?』
天使なのかと思った。
これが巷で噂のスパダリというやつですかと自問して、そうです孝支くんがスパダリマイ彼氏ですと意味不明な自答までしておいた。
それくらい、びっくりしたのだ。
彼がどこまでもやさしいのか、はたまたそれが男気というものなのか。孝支くんてば、自分が全額負担するのが当たり前だと思っていて。
クラスメイトの女子は皆一様に「彼氏が奢るのは当然!」だなんて言うけれど、でも、私はそうは思わない。
私たちはまだ子どもだ。
悔しいし恥ずかしいけど、親の庇護(という名のお小遣い)がなければコンビニに行くことすらできない。
お互い部活も勉強もちゃんとしなくちゃいけないし、自由になるお金を稼ぐ時間もほとんどないのだ。
だからこそ、こう思う。