• テキストサイズ

君が笑う、その時まで

第17章 再会


◆◇伊織視点
 じゅー、じゅー……。

黄「いやー美味しいッスね!」
伊織「そうだね」
笠「そうだな」

 私たちは今、鉄板を囲んでお好み焼きを食べている。
 
 黄瀬君が調べてくれたお店は私たちが入る頃はまだ空きがあったものの、それからすぐに仕事帰りのサラリーマンが立て続けに来店したためかあっという間に席は埋まってしまった。
 ちょうどいいタイミングだったのかもしれない。

 とりあえず各自が食べたいものを一品ずつ選んでシェアするということで私はもちチーズを、黄瀬君は豚玉を、笠松先輩がもんじゃを注文した。

黄「そろそろどうスっかね?」

 黄瀬君は鉄板上の豚玉をさっきからそわそわしてみている。焼けたかどうかが気になっているようだった。

伊織「んー…もうちょっと待った方がいいかもね」
 生地の表面を一瞥し、私は水を口に含んだ。

黄「へぇー。伊織ちゃんってお好み焼きよく作るんスか?」

伊織「そうじゃないけど。関西出身の知り合いがいて、昔結構作らされたことがあるからね」

黄「へー、そうなんスか」
 黄瀬君は苦笑いをし、それ以上は何も訊いてこなかった。

 よく昔の思いでは美化されるというが、あれは今思い起こしてみても決して良い思い出ではない。

 文字通り「作らされた」だけで一度も食したことがなかったのだから……。

伊織(あの腹黒メガネめ……)

 脳裏にちらつく残像におのずと情念がこみ上がってくる。

 ヘラを両手に持ち、頃合いを見計らって生地をひっくり返す。その際――
 
 べしゃっ。

 ――食べ物に当たってしまった感触が否めなかった。

笠「大丈夫か、オイ」
 笠松さんが控えめに尋ねてきた。

 私はすぐさま表情を繕い、「何でもない」とわらってみせた。

笠(こりゃ何かあったんだな……。)
 この時笠松さんが密かに同情していたことを私は知る由もなかった。

 そうこうして黄瀬君の注文した豚玉が焼けた。
 ヘラを使って3等分にし、それぞれの皿にのせていく。


黄「それじゃあいただきま――」
?「すんませーん!」

 奇しくも店の引き戸ががらがらと音を立てて開き、声が被った。 
/ 204ページ  
スマホ、携帯も対応しています
当サイトの夢小説は、お手元のスマートフォンや携帯電話でも読むことが可能です。
アドレスはそのまま

http://dream-novel.jp

スマホ、携帯も対応しています!QRコード

©dream-novel.jp