第10章 背中の意味
はっと我に返り、すぐさま口を封じる。
しかし時既に遅く、黒子が私の目をじっと覗いていた。
「やっぱり伊織さんは――」
「勘違いしないで。バスケなんてくだらないスポーツでしかないんだから」
彼の言葉をぴしゃりと遮る。その時、彼の瞳は微かに憂いを帯びていた。
「本当にそう思ってるんですか」
本来はここでいつものように歯を見せつけながら笑いたかった。けれどもこの時はできなかった。
彼の真っ直ぐな目がそれを許さなかった。
彼は滅多に感情を露わにすることはない。だからこそ、一言の重みが内心恐ろしいとさえ思った。
「伊織さんにとってバスケはくだらないものだと、本気で思っているんですか?」
「………………………。」
言わない。
言えない。
言ってしまったら、私の中にある大切な何かが壊れてしまいそうで。
「……黒子には関係ないよ」
そう言って彼に背中を向けることが、今の私にできる精一杯の対応だった。