第9章 練習試合
「大丈夫?それとも気分まだ悪いのか?」
濡れた額に森山さんの手が覆いかぶさる。
「…大丈夫です。気にしないでください」
その手を払いのけ、私はタオルで顔を拭った。
ぼんやりとした意識も熱くなった目頭も感じなくなったかわりに、森山さんの心配そうな表情がはっきりと見えるようになる。
「大丈夫です」
森山さんと向き合って、はっきりと言う。今度こそは伝わったようで、森山さんの強張った表情が幾分柔らかくなった。
森山さんに聞いたところによると、試合開始早々誠凛の10番が豪快なダンクを決め、その勢いでゴールリングがへし折れてしまったらしい。
急遽(きゅうきょ)全面コートを使うことになり、今はコート整備のために試合が一時中断している、とのことだ。
「意外と早い展開でしたね」
「いやいや。ゴール壊すのはさすがに怖かったけどな……」
私は作ったドリンクをカゴに入れた。ボトル1本の重さは大したことはないが、レギュラーの人数分となるとその重量はかなりのものとなる。かといって、運べないほどの重さではないが。
「さて。そろそろ試合も再開されるだろうし戻った方がいいですよ」
「それを言うなら伊織ちゃんもな」
そう言って森山さんはドリンクの入ったカゴを持ち上げた。
「こんな重いの、ひとりで大変だろ?持つよ」
「いえ、これくらい平気ですけど…」
私は慌てて森山さんからカゴを奪おうと咄嗟に手を伸ばすが、森山さんは頑として譲ろうとしなかった。
「…もしかしてからかってます?」
「からかってないよ。――実は笠松に頼まれたことなんだ」
「笠松さんが……?」
森山さんの言葉に、思わずカゴをかすめ取る気が削がれた。そんな素振りを一度だって見たことは無かったのに。
「なんだかだでアイツも伊織ちゃんの事が心配なんだよ」