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君が笑う、その時まで

第28章 re:start


◆◇
 じめじめと汗ばんだ空気が鬱陶(うっとう)しい夏の坂道に、どこからともなく一陣の風が迷い込んだ。

 火照る体に透けていく涼しさに心地よさを感じながら、私は自転車を引きながら歩いている。

 目的地である坂の上の病院に向かって坂道を上がっている。
 その途中に昔ながらの佇まいが残る一軒家と「和菓子屋」と書かれたのぼりが見えた。

 私は道路端に自転車を停めて、和菓子屋に立ち寄った。

「いらっしゃいねぇ、ってあれま。アンタかいねぇ」
「こんにちわ」

 店に何度か立ち寄っているため、店を営むおかみさんと若旦那とはすっかり顔なじみだ。
 一ヶ月ぶりに顔を見せた私におかみさんは「久しぶりだねぇ」と嬉しそうに目を細めた。
 私がいつものを注文するとこれまた嬉しそうに紙に包みはじめた。

「あの子は元気かねぇ」
「今週末には退院だそうですよ」
「そりゃよかったねぇ」

 代金を払い品物を受け取る。
 袋の中を確認すると包み紙がなぜか二つあった。

 不思議に思い、見ればおかみさんはにこにこと笑っていた。

「あの子によろしく頼んだよ」
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