第28章 re:start
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じめじめと汗ばんだ空気が鬱陶(うっとう)しい夏の坂道に、どこからともなく一陣の風が迷い込んだ。
火照る体に透けていく涼しさに心地よさを感じながら、私は自転車を引きながら歩いている。
目的地である坂の上の病院に向かって坂道を上がっている。
その途中に昔ながらの佇まいが残る一軒家と「和菓子屋」と書かれたのぼりが見えた。
私は道路端に自転車を停めて、和菓子屋に立ち寄った。
「いらっしゃいねぇ、ってあれま。アンタかいねぇ」
「こんにちわ」
店に何度か立ち寄っているため、店を営むおかみさんと若旦那とはすっかり顔なじみだ。
一ヶ月ぶりに顔を見せた私におかみさんは「久しぶりだねぇ」と嬉しそうに目を細めた。
私がいつものを注文するとこれまた嬉しそうに紙に包みはじめた。
「あの子は元気かねぇ」
「今週末には退院だそうですよ」
「そりゃよかったねぇ」
代金を払い品物を受け取る。
袋の中を確認すると包み紙がなぜか二つあった。
不思議に思い、見ればおかみさんはにこにこと笑っていた。
「あの子によろしく頼んだよ」