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君が笑う、その時まで

第27章 期待と怠惰のあいだ


◆◇伊織視点
 ――ダム、ダム、ダム。

 硬質の床面にボールのドリブル音だけが響く。

 気がつけばいつの間にかボールはゴールリングに当たることなく、ネットをくぐって落ちている。



青「……ハッ、」


 上がりきった呼気を整えて青峰君はゴール下でボールを脇に抱える私に笑いかけた。


青「…お前、イヤミばっかで大したことねーと思ったけど意外とやるじゃねぇか」
伊織「一応褒め言葉として受け取っておくよ」
 けろっとした表情で私は答えた。

伊織「ところで試合の方はいいの?そろそろ出ないと出番なくなるんじゃない?」

青「ッハッ、んなのどーでもいいんだよ。せっかく楽しくなってきたんだ。
  勝つのが分かりきった試合なんてどーでもいい」

 そう言う青峰君はただ純粋にバスケを楽しむ少年の顔つきをしていた。

 私は拾ったボールを脇に抱え、そのままコートの外へと向かった。

青「!?何だよ急に」
伊織「興がさめた」
青「は?」

 ぞんざいに言葉を吐き捨てた私はベンチの上に置いてあった鞄を肩から提げるとそのままコートの出入り口へ向かった。

青「オイッ、どこ行くんだよ!」

 青峰君は遠ざかっていく背中を慌てて追いかけようとする。
 しかし私は彼が動く前に彼を睨み付けた。


伊織「『俺に勝てるのは俺だけだ』?一本も取れなかったクセにまだそんなことにこだわってんの?――真剣勝負したいならまず自分が真剣になれ」


青「!!?」

 青峰君が怯んだのは一瞬だったが、私にはそれで十分だった。

伊織「あっしが勝てば君は試合に出てくれる――約束は果たしてもらうよ、青峰君?」
 そう言って私は歯を見せて「にしし」とわらった。
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