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君が笑う、その時まで

第26章 逃げ足とメガネ


 ……痛い。
 
 肩の痛みではなく、周囲からの視線が痛い。
 肩越しに背後を覗けば、学校帰りの生徒(主に女子)が立ち止まって互いにひそひそと話しているのが見えた。
 中には「あれって今吉君の彼女なのー!?」とあからさまな悲鳴が飛んでくることもあった。

 そう思い込まれても仕方ないと自覚しつつ、それでも人の目が気になって仕方なかった。

今「何や、落ち着きないな自分」
伊織「当たり前です。変な噂が広まったらどうするんですか」
今「"変な噂"か…もう広まってるかもしれへんな」

 そう言って今吉さんはわざと私の肩を抱いてきた。
 背後から卒倒ものの黄色い悲鳴がどっと湧き上がる。

伊織「誤解されるんでやめてくれませんか。ハッキリ言って迷惑以外の何物でもないですから」
今「誤解されるのが嫌なら、ここで付き合うのも手やで?」ククッ
伊織「…………。」

 くつくつと笑う彼の涼しげな表情に静かな殺意を覚えつつ、私は彼の手を外して何食わぬ顔で歩き続けた。

 しばらくして傍らから足音が聞こえなくなり、不思議に思って背後を振り向くと今吉さんは立ち止まったまま黙ってこちらを向いていた。

伊織「どうかしました?」
今「相変わらずひとりで抱え込んでるんやなーて」
 今吉さんは相変わらずの涼しげな表情だ。

 だけど、知っている。
 この人は言葉に人をからかう要素を含ませていれば、その裏側で核心を鋭く突くこともある。

伊織「……何柄にもない事言ってるんです。大切な試合前に考えることじゃないですよソレ」

 ――試合は勝たなければ意味がない。

伊織「言いたいことがあるなら試合後にしてください。余計な思い込みで試合に負けたなんて言われてもあっしは責任取りませんから」


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