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君が笑う、その時まで

第23章 微熱に注意


◆◇伊織視点

伊織「えーと…そんで注文は?」
高「昔のを二つ!」
伊織「あー、昔のね……あ」

 注文を受けた私は陳列棚を見やろうとして、思い出した。

伊織「悪いけど、昔ながらのコロッケ、今日は完売しちゃったんだ」
高「ええっ、まじで!?俺めっちゃ楽しみにしてたのにー」

 口をすぼませる高尾君には申し訳ないが、売り切れてしまった物は出せない。そう思って「他のも美味しいよ?」と声をかける。

マサ「――ほれ」
 不意に、脇から腕が伸びてきた。

伊織「マサさん……」

 厨房から出てきたマサさんは油紙に包まれたコロッケを差し出す。
 2つあるから緑間君にもあげるのだろう。
 2人はきょとんとした面持ちでマサさんを見やる。

マサ「悪いが今日はそれで勘弁してくれ」
高・緑「「え?」」

 そして何事もなかったかのように厨房に戻っていくマサさん。
 まるで置き去りにされたような雰囲気の2人を見て、私はにししと笑った。

伊織「マサさんからの差し入れだね。せっかくだからもらっときなよ」
緑「…いいのか?」

 緑間君がそれでもと言わんばかりに尋ねてくる。
 私は「いいよ」と手をひらひらと振った。

伊織「部活終わりでしょ?いつも遅くまでお疲れ様」

 2人のくたびれた制服姿を見れば分かる。
 高尾君は笑顔で、緑間君は平然とした顔で一見するとそんな風には見えないが、〈東の王者〉と称される秀徳高校バスケ部のことだ――毎日きつい練習をこなしていることだろう。
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