第1章 後悔はいつでも後からやってくる、の段。
椿は、手渡された着物を握り締めてその場に立ち尽くしていた。
(どうして……)
「ちょっとアンタ、そんなとこにぼぉっと突っ立ってたら邪魔よ! ちゃっちゃと着替えておいでよ」
「早くしないと、持ち場が選べなくなるよ」
同年代はもちろん、年配のご婦人方が皆一様に同じ着物を着てたすきがけをし、受付の前に並んでいるのを横目に椿はとぼとぼと更衣室へ歩き出した。
(また騙されたの…?)
昨日、これから一緒に生きていこう!と言ってくれたあの人はどこに行ってしまったのか。
お城の門前で待っていてくれ、と言われて待つこと半刻。
どこからかわらわらと多くの女性がやってきた。
皆小さな風呂敷包みを背にしている。
あっという間に女性たちの中に紛れ込んでしまった椿であったが、あの人が迎えに来るまでは、とその場を動かなかった。
そこから再び半刻。
城門が開き、女性達がわっと中へなだれ込む。
その波に逆らうこともできずに椿は中へ入ってしまった。
そうして城内にいた男が配っている着物を前の人がそれぞれ受け取るので、椿も同じく受け取ったのだった。
「ちょいとアンタ、顔色が悪いよ? 大丈夫?」
「あ、は、はい…」
あの人はきっともう迎えに来てはくれないのだろう。
大きなため息をついて、たすきがけをキュッと締める。
(ドブ掃除の当番じゃなかったらもうどこでもいいや…)
更衣室を出て、再び受付所に戻って列に並ぶ。
駆け落ちする気ではるばる山を三つも越えてきたのに、その相手がトンズラ。
もう流れに身を任せてしまおうと椿は投げやりになっていた。
どちらにしろお金がなければ家に戻れない。
こんな風にして捨てられたのはもう何度目だろうか。
どうして男たちは毎度椿をどこかの城前に置いていくのだろうか。
椿はその度に臨時で募集をかけているパートタイマー女中の応募者に混ざってしまい、こうして専用の着物に身を包んでいる。
「女中経験はある? ない?」
「あります」
「炊事、洗濯、繕い物、掃除、どれがいい?」
「繕い物で…」
「繕い物だな。じゃあこの地図を渡すから、衣裳部屋へ行ってくれ」
「はい、わかりました」