第11章 楽しいこと
「俺も」
「え!?」
「俺もキスした」
「ええっ」
「だって、したくなったんだから仕方ないだろ」
「野薔薇は…?」
「ごめんね、ありがとうってさ」
「俺も」
長太郎が微笑む。
「野薔薇、跡部さんの前だとちゃんと笑うのかな」
「そうかもな」
「いいなぁ」
自分たちもあまり見たことがない素顔の笑顔を思うと、少しうらやましい。
「もう今日は寝ようぜ。鳳もひどい顔だし」
「…うん」
鳳が神妙な顔で頷く。
「それ、冷やしとけよ」
「あ、うん、氷のう貰った」
俺達は気付くのが遅かった。
あいつは自分のしあわせを自分で見つけたのだ。
もう、俺達が守ってやらなくても、笑えるんだ。
鳳の枕元に俺達があげた野薔薇の眼鏡があった。
ああ、鳳にとられたってさっきあいつが言ってたな。
そう思いながら眠気を受け入れる。
鳳はもう寝息を立てている。
野郎の寝息を聞きながら眠りに落ちるのは不本意だったが、すぐそこまで迫る睡魔に身を委ねた。