第6章 おはよう
若と並んで立つ。
「なんで黙ってたんだよ」
「…なんか、タイミングなくて」
「いつだよ」
「髪切った時期に」
「…切られた、の間違いだろ」
「あれ、言ったっけ?」
「跡部さんが言ってた。マネージャーの処分の話はミーティングでもしたからな」
「そっか」
「お前はもう少し周りを頼れよな…」
ため息を吐く若を見上げると、目が合って少しだけ微笑まれた。綺麗な顔。
テニス部の人気は景吾を始め尋常じゃない。
ただのマネージャーと認識されているだけのはずの私ですら、今回の様な目に遭うわけで。
正式な部員になった時もひどかった。
もちろん学校柄お嬢さんが多いから、暴力はなかったけれど、上履きに画びょうがどっさり入っていたり(重かった)、トイレから戻ると消しゴムが消えていたり(ゴミ箱にあった)と、みみっちいものだったけど、とにかく鬱陶しかった。
レギュラーマネージャーになった時はマネージャー同士まで殺気立つし、女子って業が深い。
だから、彼女のいる部員はあまり公表しない。
「野薔薇ちゃーーーん、俺にも構ってほしいC~~」
「きゃっ」
突然後ろから抱きつかれよろけたけど、若が手を掴んでくれた。勢いで若とジロー先輩のサンドイッチになる。
「おい、ジローーー!!!離れろ!」
景吾が走り寄りジロー先輩の襟首をつかむ。
引っ張られて私も後ろによろけた。ただ、若が手を引いてくれたので転ばずに済んだ。
「やだやだ、あとべばっか野薔薇ちゃん独り占めして~、野薔薇ちゃんはみんなの野薔薇ちゃんなのに~」
「違うっつったろ、コイツは俺様の女なんだよ」
俺様の女、だって。
つい頬が緩んでしまう。
「にやけ顔、気持ち悪いぞ」
若を見るともう笑みは消えてて、いつもの無愛想。
景吾と付き合っていたこと、黙ってて悪かったな。
でも本当に、あんまり心配かけたくなくて。
若と長太郎が、今まで守ってきてくれていたから、私はこうして今日も元気。