第6章 おはよう
「まぁ、今回の件は俺の監督不行き届きだ。すまなかったな。野薔薇の意見を尊重して他の部員にはまだ言う予定はない。よろしく頼む」
肩を抱く手に力がこもる。
「お前らも彼女がいる奴は気を付けろ。ちゃんと守ってやれよ」
私に視線を移し、またみんなに向き直る。
「報告は以上だ。さっきも言ったが今日の朝練は返上で、コイツの快気祝いにするぞ」
よっしゃーと口々にみんなが笑顔になってほっとする。
ジャンケンでダブルスを決めたけど、私だけは景吾と一緒だ。
「よし、野薔薇、氷の女王の実力見せてやれよ」
そう言ってコートの隅に片膝を立てて景吾が座った。
「えーっ!?景吾、打たないの?」
「ここに来た時だけ打ってやるよ」
「もう!」
頬を膨らませると景吾がひどい顔だな、と笑った。
絶対景吾抜きで勝ってやる。
コートの向こうには宍戸さんと日向さん。長太郎が少し不満げに審判席に座った。
「おお、逢崎が跡部にタメ口きいてる…でも、跡部打たねーと不利じゃねぇか?」
宍戸さん優しい。
「問答無用っ」
向日さんは容赦ないですね!!!
ぱこんっと乾いた音が鳴る。ボールはコートの奥へ弾んだ。
「お、やるじゃねぇか」
向日さんは面白がって私を左右に走らせる。景吾にボールを打たれたくなくて、できるだけ深く打ち込んだ。
宍戸さんはもう飽きたのか、ラケットを指の上に乗せてバランスをとっていた。
隙あり!
ネット前にボレーを叩き込むと向日さんが「ししどー!」と怒鳴った。
「わりぃ、油断してたわ」と頭を掻く宍戸さんを見て、長太郎が笑った。
「おい、お前のダブルスパートナー使えねぇぞ!」
「宍戸さんはすごい人ですよ!向日さんこそ真面目にやってください!」
「お前は審判席で何を見ていたんだよ!」
コートの横では忍足さんとキャプテンが笑ってる。
「もー、次は私から行きますからね!」
間髪入れずにサーブを打つと向日さんがぶつぶつ言いながらボールに向かう。
相変わらず身軽に飛び回る。
負けじとボールの落下地点を考えながらコートを走ると、振り返っていた景吾と目があった。
本当に一瞬だけ睨みつけてみたけど、景吾は優しく笑っていた。
ずるい。
落下地点はおおよそ当たりで私は難なく打ち返す。
「くそくそ、侑士、笑ってんなよ〜」