第6章 おはよう
「今日はみんな少し早いですね!私も少し打ちたいんですけど、良いですか?」
忍足さんに聞くと、忍足さんは「ええんちゃう?なぁ跡部」と言いながら景吾を見た。
景吾は聞いていたようで、薔薇の微笑みで頷く。
「ああ、お前の快気祝いで全員で相手してやるぜ。早く着替えて来い」
「わーい!そうします!」
急いで女子更衣室で着替えを済ませ飛び出すと、人とぶつかりそうになった。
「ああっごめんなさい!」
慌てて頭を下げると「元気そうね」とキャプテンの声がした。
「侑士からさっき聞いたよ。もう大丈夫そうで、良かった」
キリッとしたキャプテンが微笑むと、空気が変わる。
「ありがとうございます、ご迷惑お掛けしました。跡部先輩が打たせてくれるって言ってるんですけど、キャプテンも一緒にどうですか?」
キャプテンが「迷惑じゃなくて心配したわ」と言って私の髪を抑えるように撫でつけた。
あ、さっき髪くしゃくしゃにされたんだった。
「ありがとうございます」
お礼を伝えるともう一度頭を撫でられた。
「私も打ちたいな、先に行っててね」
「はい、お待ちしています!」
キャプテンは忍足さんの彼女だ。
景吾と付き合うようになった時にキャプテンにだけ伝えると、内緒にした方が面倒にならなくて良いわよ、と言ってくれた。
忍足さんと付き合っていることも内緒にしているから、と、私にも忠告してくれた優しい人。
コートに戻ると忍足さんが「なんや、スコートやと思ったのに、残念やな」と言った。
「キャプテンはスコートでくると思いますよ」と返事をして皆に駆け寄る。
「その前に、お前らに言っておくことがある」
景吾が皆の顔を見ながら真剣な表情になった。
私までなんだか緊張してしまう。
「野薔薇」
名前で呼ばれ、びくりと肩が震えた。
「うん」
皆が驚いた顔をする。
「黙ってて悪かった。コイツと付き合ってるんだ。もうすぐ半年になる」
一同が絶句しているのを見て、なんだか申し訳ない気持ちになる。
「ええと、そうなんです、黙っててすみませんでした」
私が慌てて頭を下げると景吾が肩を抱いた。