第4章 どこにも行かないで
身体を起こして野薔薇をつつく。
「ほら、そっち詰めろ」
「え?」
「俺様が寝れねぇだろうが」
「だって、簡易ベッドあるよ?」
隣に並べられたチープなベッドを指差す野薔薇。
「俺様は簡易ベッドなんて使わねーよ。狭いだろうが。なんのために良い病室を用意してもらったと思ってんだ。」
「…なんのためですか」
「今思ってること言ってみろよ」
紅く染まる頬が可愛くてついからかってしまう。
「景吾のハゲ」
「おい、俺はハゲてねぇ」
野薔薇は「ふん」と小さく言って赤い顔を反対側に向け、少し端に寄った。
ベッドに入り込み後ろから抱き締めるとふわりと甘い匂いがした。
砂糖みたいな甘い匂い。
香水か?
髪に顔を埋めると、野薔薇がクスクスと笑い声を上げた。
「くすぐったいよ、景吾」
「ああ」
気のない返事をしてうしろから首に鼻を擦りつけた。
「ふふっちょっと」
身を捩り、ようやく野薔薇はこちらを向いた。
人形みたいに端正な顔には微かな笑みが浮かんでいて、その表情は見慣れたとは言えあまりにも綺麗で心臓が跳ねる。
そっと頬に触れて引き寄せ唇を合わせると、頬笑みは妖艶な表情に変わっていて、ほんの少し残っていた理性を消し去ってしまった。
ここが病院だろうが、入院中だろうが関係ねぇ。
身体を起こして覆いかぶさると少し困ったような顔をしていて、またそそった。
「お前、ほんとそういう顔どこで覚えてくるわけ?」
反則…。
「景吾が傍にいると、こういう顔になるの」
今度はニッと笑う。
堪らず抱きしめると野薔薇の手が俺の背中を撫でる。
踊らされている。
そんな気持ちになる。でも、それも悪くないと最近思う。
俺様はこいつに何を求めているんだろうか。
耳を軽くかまれる。
「んっ」
「…そういう声、好き」
見くびられているような気持ちになるけど、どうしてか身体は熱かった。
「お前、身体」
言いかけてキスされる。
「今さら心配?もう大丈夫だよ」
深くキスを落とす。野薔薇は目を開けたまま俺を見ていた。
唇を離すとふわりと微笑んだ。
「私、景吾が好き」