第1章 先輩と私
雑用も進んでこなしてこそマネージャーだと思うんですよ。
洗濯機のスイッチを入れると、準レギュラーマネージャーの子が洗濯物を運んできた。
「お疲れさまです」
声をかけるとハッと顔を上げて、慌てた様子で「お疲れさまです!!」と挨拶をされた。
「あ、隣の洗濯機空いてるから、使えますよ」
「はい、ありがとうございます」
以前緊張した面持ちで彼女は洗濯物を洗濯機に入れる。
「あの…逢崎先輩…」
「えっ?はい」
200人以上いるテニス部員、マネージャーの仕事は腐るほどある。そんなマネージャーは番号で呼ばれることが多い。
ジャージをちらりと見ると12番、とあった。12番は灰崎さん。一年生だ。
「灰崎さん、少し顔色悪い?体調あんまり良くないんじゃないの?」
名前で話しかけると、灰崎さんはぴくりと肩を揺らした。何かに怯えているみたい。
「どうしたの?あんまり具合悪いなら、早退した方がいいよ?」
背中に手を当てると、少し震えていた。
「あの、体調は大丈夫なんです」
「うん?」
優しく相槌を打つと少し震えが止まった。
「少し、相談にのっていただけませんか…」
震えて消え入りそうな声で話す彼女になんとなく察しが付く。灰崎さんは最近普通のマネージャーから準レギュラーのマネージャーになったばかりだ。
私も同じような目に遭っている。
「分かった、部活終わった後でも大丈夫?遅くなるし明日の朝練前とかでも良いけど」
「あ…じゃあ、明日の、朝練前でも良いですか…?」
「分かった、これ、私の連絡先」
LINEのID.が書かれた名刺を渡すと、彼女はやっと笑顔を見せた。
「お忙しいのに、ありがとうございます」
「ううん、無理しないでね」
次は買い出し。
正レギュラーの部室をノックして入ると、向日先輩が豪快にシャツを脱いでいた。
「きゃ、お疲れさまです」
「ん?ああ、逢崎お疲れー」
「すみません」
「逢崎、早く慣れろよ、ここは部室なんだからよ」
「跡部先輩、男の子の裸に慣れろって意味なら、それセクハラですからね!」
「はははっ跡部にセクハラなんて言えるの、逢崎くらいだな!」
「うるせぇ、逢崎も用件があるなら早く言え」