第1章 先輩と私
「本当に申し訳ありませんでした!今日買い出しのついでにコンビニで買ってきますから!」
「おー、ありがとうな、まぁ、ついででかまへんよ」
「はい、ありがとうございます」
やばい、跡部先輩の顔がやばい。
「では、準備がありますので」
足早に部室を後にする。
洗濯物を抱えてゆっくり歩いていると、どん、と衝撃を受けた。
「ぷ」
「あ、ごめんなさい、大丈夫ですか?」
この柔らかい声は、レギュラーきっての常識人、鳳長太郎!
洗濯カゴを置いて顔を確認する。
「ごめん、前見えないから、ゆっくり歩いてたつもだったんだけど」
「ああ、逢崎か。いや、俺も少しよそ見してたから、怪我とかしてないよね」
「うん、大丈夫、本当にごめんね」
「いや、俺こそごめんね」
「お前ら、謝りあってて、会話終わんなくねぇか?」
長太郎の後ろから宍戸先輩が顔を出す。ふっと笑う表情はいつものぶっきらぼうな様子と対照的だ。このギャップに女の子はやられてしまうんだろうか。
「逢崎、長太郎が朝練で軽く捻ったところ、見てやってくんねーか」
「はい、もちろんです。長太郎、座ってくれる?」
「うん」
「ここ…あ、これかな、少し張ってる」
「あ、たぶんそこ」
「じゃあ、ここテーピングしておくね。メニューについては跡部先輩に言っておくから」
「うん、ありがとう」
穏やかに微笑む長太郎は、誰にでも優しく勘違いされやすい。
こんな様子も、ファンの子に見られたらきっとまた生卵が飛んでくるだろう。
ぴ、とテーピングを切り、足首をぺち、と軽く叩いた。
「はい、これでおっけー!」
「サンキューな」
「ありがとう」
「いえいえ、マネージャーですから!」
にっこり笑うと宍戸先輩がぽん、と私の頭を撫でた。
引き続き洗濯物を抱えてゆっくり歩き出すと、洗濯物が急に軽くなった。
「重くない?」
「あ、滝さん」
山盛りの洗濯物を少し抱えてくれた滝さんは、肩までのサラサラの髪を揺らして微笑む。
「さすが、歴代最速レギュラーマネージャー、やるねー」
「いえ、そんな」
「謙遜しないのー、俺も頑張らないとなー」
結局、洗い場まで滝さんが洗濯物を一緒に運んでくれた。
「すみません、ありがとうございました」
頭を下げると滝さんも私の頭をぽん、と撫でた。