第1章 先輩と私
「だめぇっそれ忍足先輩のやつ!!」
叫ぶも虚しく、新発売のコンビニスイーツ『白いクリームたい焼き』は跡部先輩の口に収まってしまった。
部室の冷蔵庫内の私物は名前を書かなければ所持権なし、そう決めたのは私だけど、それは今朝忍足先輩が嬉々として冷蔵庫に入れてて皆見てたのに…。
「まぁまぁだな」
「もう!跡部先輩も今朝見てましたよね!?忍足先輩がそれ嬉しそうに自慢してたところ!」
「あーん?名前がなかったから食っただけだろうが」
「…」
最近の先輩のマイブームは庶民スイーツ。
だから特に名前を書くように念を押してるのに…。
「うっ」
後ろから襟首を捕まえられ息が止まる。それもつかの間首根っこを掴まれた状態で上に持ち上げられる。
あし、あしが浮いてます、ちょっと!
先輩を見ると、左手が私の頬を挟んだ。
「あにすんれふか」(なにすんですか)
「やけに忍足を庇うじゃねぇか」
だって揉めたら面倒くさいもん。なだめるの大変なんだもん。
「ほんらほとありあへん」(そんなことありません)
「それに、2人きりの時は何て呼ぶのか忘れたのか?」
「……けーごへんはい」
「ふん、まぁ良いだろう」
もう一言文句を言おうと口を開いたところで跡部先輩の右手が私の襟首から離れた。
10cmほど浮いていた私は落っこちた。
ガチャ。
「お疲れさーん」
「あ、忍足先輩、お疲れさまです」
尻もちをついたまま顔だけ入口に向ける。よりによって忍足先輩か…。
忍足先輩は座り込む私と不機嫌そうな跡部先輩を交互に見て、はぁ、とため息を吐いた。
「なんや、また跡部にいじめられてたんか?」
まぁ、そう見えますよね。
「いえ、まぁ、はい」
「ははは、どっちやねん」
忍足先輩が私に手を伸ばす。手を借りて立ち上がりお尻をさする。
「ありがとうございます…」
顔を上げると忍足先輩越しに、跡部先輩が鬼の形相をしていた。
「あっ、忍足先輩ごめんなさい!私、白いたい焼き、食べちゃいました!」
勢い良く頭をさげる。
「えーっ!!……マジか…」
がっくり頭を垂れる忍足先輩。でもこれが1番角が立たないはず!
「ま、しゃーないな、自分やから許したるわ」
ぽん、と頭を撫でられる。本当にごめんなさい。